現代人の感情と時間を蝕む『スマホ脳』について解説する①

書籍

当ブログでは、時折時間管理やモチベーション管理といったことを取り扱ったりしています。

この多忙なストレス社会で、我々は気分よく生活を送るだけでもとても努力を要するわけです。

そんな中で、2018年に「現代人が抱える不安や鬱、睡眠障害や学力の低下ってスマホが関係あるんじゃない?」と唱えた本がありましたので、今回紹介します。

それがこちら。

アンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』という本。

ハンセンはかの教育大国スウェーデンの精神科医をしており、この『スマホ脳』と前作『一流の頭脳』で一躍有名になった、国民的インフルエンサーの一人でもあります。

そんなハンセンの住むスウェーデンでは、実に9人に1人が抗うつ剤を処方されているとのこと。

しかも、そんな精神科に訪れる患者が急増したのが、スマホが世界的に普及した2011年とのことで、本書ではスマホやSNSが現代人に与える影響を、人間の本能レベルまで掘り下げて紹介しています。

この記事では、進化の過程で身につけた我々の本能的習性と、それにうまく漬け込んだスマホやSNSの悪き策略について、紹介をしていきたいと思います。

ついついスマホを見てしまう方や、普段なぜか不安感や気持ちの不調を拭えない方にとって、解決の一助になるかもしれません。

ちなみに私はこれを読んで、スマホのSNSアプリを全削除し、娯楽のアプリは極力アクセスしにくい形のホーム画面に変え、さらにはなにかに集中したいときはスマホの電源を落とすようになりました。

それによって実際に効果を強く実感しているので、思い当たりのある人はこの記事だけでもぜひ一読いただければと思います。

人類の遺伝子の進化は1万年前で止まっている

我々の祖先となる種がこの世界に出現したのはおおよそ20万年前。場所は東アフリカでした。

その中の数千人がアフリカ大陸からヨーロッパ、アジアと移動していき、実に一万世代に渡って現代まで繁栄してきたわけです。

つまり、黒人も白人も我々黄色人種も、全て祖先を同じくしており、遺伝子の99.9%は同じと言われています。

そんな彼らは、集団で狩りをしたり木の実を拾ったりしながら、何千世代に渡って生きてきました。

そして、農耕が始まったのはおおよそ1万年前。

つまり、ご先祖様のほとんどが狩猟採集をして暮らしたということで、我々の遺伝子や本能は、基本的にこの狩猟採集民族の時代で出来上がったと言われています。

それは、逆をいえば、我々の遺伝子は1万年前で進化が止まっているとも言えるわけです。

したがって、かつて狩猟採集民族だったその当時の生活を知ることができると、今日の現代人の悩みをより深く理解することができます。

狩猟採集民族たちの生活とは?

では、狩猟採集民族を取り巻いていた環境というのはどのようなものだったでしょうか。

現代の生活と比較してみていきましょう。

・当時は50〜150人程度の集団で暮らしていた。

⇒現在は人口の多くが都市で暮らしている。

・平均寿命は30歳。

⇒現在は世界平均が女性75歳、男性70歳。

・当時は常に移動し、住宅も簡素。

⇒現在は一つの場所に数年〜数十年住む。

・当時の狩猟採集民が生涯で出会う人は200人程度、多くて1000人程度だった。

⇒現在はネットを通じて世界中の人たちと繋がっている。

・当時の死因は飢餓、干ばつ、伝染病、出血多量等だった。

⇒現在の死因は心不全や癌、脳卒中。

・当時の人口の10〜15%は他の人間によって殺された。

⇒今は戦争や殺人等で死ぬのは全体の死因の1%未満。

・周囲には、猛獣や敵部族など、あらゆる危険が蔓延っていた。

⇒今は周囲の危険はもうほとんどなく、むしろ一つのことに集中した方がいいとされている。

当然ですが、我々現代人と狩猟採集民族とは生活が大きく異なっています。

そしてこれらのことが言えるのは、当時のままである我々の遺伝子は、現在の生活にとても適しているとは言えない状況にあるということです。

例えば当時、道を歩いているだけでもライオンやヘビ、あるいは敵対する部族など、常に命に関わる脅威と隣り合わせでした。

さらには飢餓にさらされ空腹の状態だったので、少しでも腹を満たそうと、外敵にも気を配りながら、食料探しも行っていました。

つまり、外敵や食糧確保のために、常に注意を散らして、活発に行動できる状態にしておくことが、生存の鍵となっていたわけです。

しかし現代は、幼少期は座学で勉学に励み、大人になれば事務作業やパソコン仕事をするといった、一つの物事に集中することを要求されます。

その結果、かつては重要だった注意散漫のスキルが軽視され、さらにはそれが発達しすぎた人間にはADHDという診断名まで下るようになってしまったわけです。

さらには、これだけ危険が蔓延る世界に生きていたため、リスク計算や危険回避のための思考は命に関わるほど重要なことでした。

それを、我々先祖は「感情」という形で無意識の本能レベルで行ってきました。

生存のための「感情」が、今ではマイナスに

我々は多くのことを本能と感情で判断します。

例えば、カロリーがあるポテトチップスを食べた時は「美味しい」と感じて、脳はドーパミンを送ります。そして無意識が「もっと食べろ!」と司令を送ります。

それは飢餓で苦しんでいたご先祖たちには非常に重要なものでしたが、カロリーがほぼ無料で手に入る現代では、むしろ健康リスクとなってしまいます。

さらに、ヘビやライオンを見た時には、我々の脳はコルチゾールアドレナリンを送ります。

そうすることで、脈を早めて筋肉に血液を送り、逃げたり戦ったりすることにおいて万全の状態に仕上げるのです。

そんな生存のための感情ですが、「嬉しい」「楽しい」といったポジティブな感情がある一方、「悲しい」「辛い」といったネガティブなものもあるわけですが、感情というものはネガティブな感情が最優先されます。

というのも、食事や睡眠は先延ばしにできますが、襲ってくるライオンや仲間の裏切りの対処を先延ばしにはできないためです。

我々はネガティブな情報に興味津々なのは、ほとんど全ての映画や漫画のストーリーで、窮地やピンチ、悪い状況のシーンが描かれていることからもわかるかと思います。

そんなわけで、脅威の去った現代でも、我々は暗いニュースやゴシップをかき集めて、自らネガティブな感情を作り出してしまうのです。

脳の火災報知器「扁桃体」

人前でのスピーチをする時や、あるいは会議に遅刻したりした時、心臓がバクバクと鳴り出し、冷や汗をかいたという経験をした人は多いでしょう。

それはまさしく、脳の中の「扁桃体」という部位が作動し、体にコルチゾールとアドレナリンを送った証拠です。

この扁桃体は、周囲の危険を察知すると、その大小や詳細を問わずに反応します。

大火事の黒煙でもタバコの煙でも構わずに鳴り出す火災報知器と同じです。

というのも、危険を見逃してライオンに食い殺されるよりは、過度に何度も緊張状態になってでも危険を回避する方が生存率はぐんと高かったからです。

そのため、我々は現代でもちょっとしたことですぐに扁桃体が反応して緊張状態を作り出してしまうのです。

ランダムな報酬を得られると過剰に興奮する

そんなすぐさま緊張状態を作り出してしまう我々の脳ですが、過度に危険を恐れていてはろくに外出もせず家に篭りきりになり、やがて餓死することになります。

そのため、生存のために危険に立ち向かうことも重要になります。

そんな生存のための行動を促してくれるのが、脳の報酬系。

例えば目の前に美味しそうな食べ物が現れると、「これを食べなさい」と促すためにドーパミンが脳から分泌されます。

そして、「体内のモルヒネ」と呼ばれるエンドルフィンが分泌され、満足感が得られるのです。

ここでミソとなるのが、ドーパミンは例えばお金や美味しい食べ物を得られた時に分泌されるのではなく、それが得られるという期待が出た時に分泌される点。

つまり、あくまでドーパミンは「これをしなさい!」という行動を促すための伝達物質なのです。

そんな我々の脳が最もドーパミンを分泌するのが、新しい情報やランダムな報酬への期待です。

生存のためには新しい情報、新しい知識を得ることは非常に重要であることから、そこにドーパミンが分泌されることはご理解いただけると思います。

では、報酬について、常にもらえるのではなく何故ランダムな報酬で最も分泌されるのかと言えば、その理由は狩猟採集民の生活にあります。

彼らが狩りや木の実の採集に出かける時、報酬が必ずしも確定しているわけではありません。

我々が生存するためには、そんな無報酬のリスクがある中でも、行動に駆り立てる必要があります。

そのため、脳が最もドーパミンを分泌するのは、当たりかハズレかどちらになるかがわからない状態の行動なのです。

「世界で最も人を狂わせた機械はスロットマシン」という話がありますが、まさしく、スロットマシンはそんな人間の習性を利用しています。

そんな人間がスマホにどう反応してしまうのか?は次回で

さて、上記で、進化の過程で身につけた、人間の本能的な部分をおおまかに紹介をしました。

次回では、そんな人間の本能を巧みに利用して、スマホやSNSの開発者たちは自社サービスに目を向けるように仕向けたという、その核心の部分に迫っていきたいと思います。

それではー。

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